解放。

空間表現ってのは、要は見え方だって気付いた。
マチエールでそいつを表現するのに、輪郭線は重要じゃない。固有色は消えた。
でもさ、どーしてもはっきりしねえんだ、画面。もうちょいだと思うんだけどなぁ。
そんな時、久しぶりに講師が声かけて来た。「ちょっと弄っていい?」了解。
「ゴルフの池ってどうだ〜?」下手だ。「オレやっていいすか。」やってみた。
正直、その「ゴルフの池」でその絵が良くなったかは疑問だ。
ただ、そいつはオレにでっかいヒントをくれた。
「ゴルフの池」ってのは、厚めの絵具で作った輪の事なんだけど、そいつは
オレの絵の中で完全に浮いていた。そうだよ、オレの絵に無かったのは
この強さだったんだよな〜。
次の日、課題は静物。オレは作業中盤に画面の中の空間2番目に深い位置に、
改良ゴルフの池を作った。その強さに負けぬ様、周りの空間を探った。
それでもなお強いゴルフの池を、終盤でギリギリまで周りに馴染ませた。
よし、後は一番前を少し強めたら………………でも、やらなかった。
今やっちゃったら、本番で出来なくなる気がしてさ。
あとは実戦で。形は出来た。芸大二次、前日の事だった。

いよっし!本番!!素描二日、油絵二日、そいつで今年は終わり。
素描のお題は……
「自分のテーマで描きなさい。テーマを言葉で書き入れなさい。」
なんじゃい、そりゃ〜!?マチエールで空間のオレには致命傷に思えた。
道具箱を探った。バイト時代に貰った?ああ貰ったグラスが2個……
そいつをセットして描き始めた。観て、描き始めた。
…なのに、なにこの違和感。スッキリしねえ……
観て描いている、確かだ。でも、これって「自分のテーマ」?
このグラスはオレのテーマか、おい!!

描いていた絵を全部消した。亀が好きなんで亀を描いた。(バカです)
でも、心は落ち付いた。マチエールで空間作りながら、亀描いた。
次の日、テーマを書き入れた。「綽々と、寂々と。」
意味は、落ち付いている様・静かな様ってとこかな。
亀でこのテーマって良くない?って自画自賛。
でもこいつは、そう望みたいってオレに対する願望だったんだろな、きっと。
ともあれ素描は終わった。完成度は低かったかもだけど、貫いた。
あとは油絵で勝負じゃい。

油絵の出題、「自分のテーマで描きなさい。」
もう迷いは無かった。仕事は決まっている。……物は無い。
形を見つけた、二次前日の静物の空間を使った。亀を描いた。
次の日、午前中に出来上がった。あと3時間ある……………
終わったのか?やっぱ描きこまないと…描こうとする。画面が壊れそうになる。
方向が変わりそうになる。廊下に出て、タバコを吸う。絵を見ない様に。
終了直前にアトリエに入る。もう一度見る。…………よし、もう描く所はない。
長髪は仕切りで隔たれた隣のアトリエだった。鐘がなった。
お互いに絵を見せあいっこした。なーにしてんだろーなぁ〜。
ずっと緊張してたんだろなぁ?そりゃするよ、するにきまってんじゃん。
この日から発表まで一週間、一番緊張した。そりゃどうにもならない緊張をした。
だって、何にも足掻けないじゃん。今やまな板の上のコイ。
家にも帰らず、ずっと飲み歩いていたなぁ、不安で不安で…

発表当日、長髪と待ち合わせて二人で観に行った(バカ・注1)
赤門の前までタクシーで行って、歩いて芸大に行った(バカだバカ)
近付くにつれ、会話はなくなり、お互い別の歌を歌ってた。
門が開いた、人がなだれ込む。合格者60人、一目で分かる。
…………あった。喜びはすぐには来なかった。安堵、開放感、それが正直……
……長髪は!?……あった!オレの番号のすぐ隣。国技館2階の端と端がさぁ。
(注1・良い子はマネしちゃダメ!片方落ちてたら、微妙すぎる空気になるよ。)
よし、袋とりに行こう。オレは書類の詰まった、一目でそれと分かる袋を、
あらかじめ用意した空のトランクに詰めた。
「長髪も入れる?」長髪は申し出を断って、手に持った。そりゃ、嬉しいさ〜。
一見、袋の無いオレに予備校関係者がパンフを差し出す。そいつを軽くかわして、
オレたちは門の前でタクシーを止めてお茶の水に向かった…


それから10数年、今も作品を作りながら今度は教える立場になっている。
もの作りやイラストの仕事もちょくちょく入って来始めた。
作品もすこしは認めてくれる人が出て来たみたい。
長髪は、元々やってた音楽に専念。バンドや自分のレーベル立ち上げて頑張ってる。
お互い三十越えて、やっと始まった、やっと回り始めたってとこかなぁって、
今度も北千住で飲むんだろうね。
[PR]
by g-mawatari | 2001-01-01 00:00 | 美大受験
<< 3年ぶりに地に足付けて。